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仙台高等裁判所 昭和24年(を)112号 判決

被告人

佐々木速雄

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

弁護人須田吉衞の控訴趣意は別紙の通りである。

その第一点について、

原判決はその証拠として、「被告人の当公廷における自白」を挙げていることは所論の通りである。そして單に「当公廷における自白」とある以上それは判示事実全部の自供を意味するものと解するの外はない。ところで原審公判廷において被告人が原判示の事実全部を自白しているかどうかを檢討して見ると、原判決の認定した事実は起訴状記載の公訴事実と全く同一であるところ、原審第一、二、三回公判調書によれば、被告人は先ず公判の冐頭手続において、檢察官の起訴状朗読の後をうけて、被告事件につき、「事実は大体その通りで私として別に申上げることはありません」と陳述しているがこの陳述は、「大体」という制限的な副詞を使用している点のみを見れば、一部は承認しないという趣旨であると解されないでもないが、「大体」という語は日常の用語としても何等の意味なしに使われることが屡々あり、右陳述においても「大体その通りで」といつた直後に「私として別に申上げることがありません」といつて、公訴事実には全然不服がないことを表明しているのであつて右陳述自体で、全体としては、これを以て公訟事実の全面的承認と解し得るばかりでなく被告人の右陳述に次いで弁護人も「被告事件については別に爭わないか」といつて唯本件は被告人が経済的窮境にあつたための犯行である旨情状に関して若干の陳述を行つたのみであり、その後の手続においても、被告人は弁護人及び裁判官の各質問に應じ、質問された範囲ではすべて公訴事実と同旨の供述をし、反面、被告人も弁護人も公訴事実の一部たりとも之を否認する趣旨の陳述も立証もせず、すべて公訴事実の肯定を前提とした態度を以て終始していたものであることに徴し、被告人の前記陳述を以て公訴事実の全面的承認と解しても被告人の眞意に反するものとは認められない。なお被告人は、右陳述の外にも、公訴事実の一部については弁護人及び裁判官の質問に対し、之を肯定する供述をしているから、被告人は原審公判廷において、公訴事実即ち原判示事実全部を自白したといい得る。從つて、原判決が「被告人の当公廷における自白」なるものを証拠として援用したことは何等違法ではない。なお、論旨が被告人の原審公判廷における公訴事実に関する供述は前記冐頭手続における陳述のみであるように主張としているのは事の全貌を悉さないものである。論旨は理由がない。

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